↓ここではホタルブクロの話を書きました。
https://kuebiko.blog.jp/archives/14945432.html
ホタルブクロ 2022年07月22日

↓ここではホタルの話を書きました。それは朝日俳壇の句から話を発展させたのでした。
https://kuebiko.blog.jp/archives/14992012.html
ホタル 2022年07月25日

★今回はまた朝日俳壇の句を読んでの話です。テーマはホタルではありません「アリ(蟻)」です。

朝日俳壇(2022年7月17日)
 <高山れおな選>
   何一つ運んでをらず蟻の道(兵庫県猪名川町)小林恕水

蟻が行列しているときは、みんなで何かを運んでいるときだ、という感覚をお持ちのようです。
確かに、そういうシーンは多い。
でも「最初」というのを考えてみてください。1匹のアリがエサになるものを探してあちらこちらと歩き回る。
そして、自分一匹では持ち帰れないエサに出会ったときや、エサがたくさんあって仲間の応援が必要な時、どうするか。
先ずは一旦巣に戻って、仲間を連れてこなくてはなりません。
で、発見者のアリは、腹端部から「道しるべフェロモン」という物質を分泌して地面に擦りつけながら帰巣します。
{ここで、あてもなく探査していたアリがどうやってまっすぐ巣に還れるのか、という問題がありますが、それについては先送りにしておきます。}

巣に戻ったアリは、エサがあるから一緒に来いというサインを出すのでしょうね、自分がつけてきた道しるべをたどりながら、仲間を引き連れてエサのある所へ行きます。この時は、エサをとりに行くのですから、行列になっていても誰も何も運んでいないはずですね。
こういうシーンをおそらく上掲の句の作者はご覧になった。アリが並んで行進しているのに何も運んでいない、と。

さて、みんながエサのある場所につけば、力を合わせるなり、分担するなりして、エサを巣に運ぶ。
この時みんながまた道しるべフェロモンをつけて帰る。
エサがある限り。この道しるべフェロモンのガイドで、繰り返し巣とエサの間を往復します。
そのたびに道しるべフェロモンの道しるべは強化され続けます。
そしてエサを運び終えると、もう、その道を歩く必要がなくなりますので、揮発性の道しるべフェロモンは揮発して薄くなり、道しるべは消えていくのです。

★さて、道しるべフェロモンというものについて少し付け加えましょう。

「ホルモン」は知っているけれど「フェロモン」って何だ?という方へ
↓現代用語の基礎知識2013年版より引用
◆フェロモン(pheromone)
昆虫や哺乳類が出す化学物質で、同じ種での情報交換を担う。ホルモンが体内で作られて同じ個体の体内で働く物質であるのに対して、フェロモンは体外に放出されて同種の他の個体に作用する。性フェロモンや道標フェロモン、集合フェロモンなどが知られている。
性フェロモンは雌雄のコミュニケーションですね。
集合フェロモンは、ゴキブリが有名。ゴキブリたちが集まるのは集合フェロモンで「集まれぇ」と号令がかかっているんですよ。

★さて、道しるべフェロモンについては一通り書きましたが。
先送りにしていた「あてもなく探査していたアリがどうやってまっすぐ巣に還れるのか」という問題は残っています。

↓ここに上の句の通りの写真がありますが、それはそれとして。
https://nature-and-science.jp/ant/#page-1
アリが道に迷わない 2つの能力とは?
曇りでも太陽の方角がわかる
 アリの行動半径は約100mと言われます。これは人間の大きさに換算すると数十kmにもなりますが、どうやって巣まで戻っているのでしょうか。
 アリは昆虫の中でも視力が良いほうで、歩きながら周りを見て景色を覚えるようです。また、アリの複眼は特殊な光を見ることができるため、雲に隠れていても太陽のある方角がわかります。
 さらに巣からどれくらい移動したか記憶するアリもいるらしく、こうした情報を総合して巣まで戻ってくるようです。

フェロモンで仲間と情報伝達
 また、アリの中でも小型のものは、多数が集まって大きな獲物を運ぶことがあります。そんなとき、仲間を集めるために役立つのが「道しるべフェロモン」です。
・・・
 道しるべフェロモンは腹部から分泌する匂い物質で、これを出しながら巣に戻ることにより、仲間は獲物の場所を知ることができるのです。
・・・

太陽の方角というのが一つありますね。「特殊な光」と言っているのは「偏光」のことです。これは昆虫では結構ポピュラーなんじゃないかな。ミツバチもエサのある方向を仲間に知らせるために、太陽の方向からの角度や巣からの距離を伝達していますよね。
ただまぁ、アリは歩いての探索ですからね、その間に太陽は結構移動したりはしないのかな。

https://cns.neuroinf.jp/jscpb/wiki/%E6%98%86%E8%99%AB%E3%81%AE%E5%81%8F%E5%85%89%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%B9
昆虫の偏光コンパス
動物は場所記憶に基づいたナビゲーションを行う.昆虫も採餌や帰巣の際に非常に優れたナビゲーション能力を示す.ナビゲーション行動を遂行するためには,自らの移動した方向と距離を正しく知覚することが必要である.その中でも,天空の偏光パターンによる方向検出は多くの昆虫で普遍的に見られ,これまでにその仕組みに関する研究が盛んにすすめられてきた.ここでは,昆虫のナビゲーションで利用される偏光視の神経機構について解説する.
(後略)

さて、「巣からどれくらい移動したか記憶するアリもいるらしく」という、これがまた大問題なのでして。

↓参考(コピーがうまくいかないので、引用者である私が若干手を入れてあります。ぜひ原文をお読みください)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/25/2/25_2_58/_pdf/-char/ja
・・・
2. 三つのナビゲーションシステム
巣などの中心地から餌場などに向かい、再び中心地に戻るという往復のナビゲーションにおいて、昆虫は大別して3つのナビゲーションシステムを進化の中で獲得した。
 
第一の方法は往路をそのまま逆戻りすることで目的地である中心地に戻る経路追随システムである(図1)。 トレイルフェロモンを残し、それをたどって巣や餌場に到達する方法はこのシステムの代表的なものである。

 一方、中心地から移動する間に種々の (手がかり)によって自らの移動方向と移動距離をモニターしベクトル積算することで現地点から中心地までのベクトルを推測する第二の方法は経路積算システムとして知られる(図1)。 経路積算システムによっ
て算出される目的地を指し示すベクトルはグローバルベクトルと呼ばれる。

 第三の方法は地図基盤システムである。 往路で木々などのランドマークの配置を記憶し記憶したランドマークと実際の風景を照合しながら定位する方法である。
・・・
ここで第二の方法として提示されている「経路積算システム」というのが驚異的ですよね。
あちこちうろうろ歩き回った経路のうち、巣からの距離の成分だけを足し合わせて保持している、というのです。
私には想像を絶します。どういう風に記憶されているのでしょうね。
これを初めて知ってから今に至るまで、私には謎なのでした。

だらだらと書き連ねました。笑ってご理解ください。

★別件オマケ
「蟻」は夏の季語なのだそうです。
アリは夏がメインの活動時期でしょうけれど、結構、長いこと活動してますよね。
秋も深まって冬の巣ごもりに備えて活動しているアリを句に詠んだら「季違い」ということになってしまうのでしょうね。
(待て待て。立秋を過ぎたら「秋だ」という縛りもあるか。8月も中旬に入ったら「蟻」は詠めないことになるのかな。)
不自由だなぁ。
短詩ですから、季語で季節感を伝えようというのは分からないでもないけど、詩人の感性を縛るというのは、なんだか、納得いかないところがあるのですけどね。
詩人ではない私が言うことじゃないでしょうけど。